ひとのこと言えない

まだ寒さが残っていた三月の下旬
仕事帰りに歩いていたら
道端におじいさんがうつぶせに倒れていた

近づいたら顔に血が付いていたが
チクショーと呟いていたので
よかった死んでなかったと思って
いまから救急車呼ぶので待っててください

 

と言ったら

 

金がないから余計なことしないでくれ

 

と言われた

 

思いがけない、おじいさんの言葉に
現代の一側面をみた気がしてしまい
ほんとはだめなんだけど躊躇して
ひるんでいたら
歩けるから
そこのスーパーまで肩かして
と言われて 肩を貸した
顔を見たら、おでこに血がにじんでいた

 

なんとか100mほど先のスーパーに辿り着いて
ベンチに座ってもらい
いま車持ってくるから待っててください

と言ったら
あんたいい人だな
ツルじゃないから恩返しできんよ

 

 

と言われた

 

 

あたまに毛がなかったので
つい笑いそうになり
こらえたが

 

 

考えてみたら私もひと様を笑っている場合ではなかった

 

 

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