「歪んだ関係」


それは初めからわかっていたことだった。もうすぐあの二人が此処を通る。
クラブ活動を終え、学校から帰る時間だ。だから私はこうしていつものように待っているのだ。
そして、本来なら此処でこうして二人が通り過ぎるのを待つだけの私だった。
が、今日は違う。今日こそ計画を実行するのだ。私は興奮していた。


二人が私に気付かないのを確認し、そっと後を追う。
夕方とはいえ、あまり近づいては気付かれてしまう。
人混みに紛れて、私は二人の後を追った。会話に夢中のようだ。
私が後を追っていることには全く気付いていない様子だった。
やがて二人が別れる路地に着いた。二人が手を振っている。
私は遠くからそっと男が去って行くのを見送った。街から離れた人通りの少ない場所だった。
案の定、付近に人はいない。私は女の後を小走りに追った。
「京子さん、今 お帰り?」
京子が振り向いた。
今だ、薄闇に紛れて、私は用意しておいたクロロホルムガーゼを彼女の口に押し当てた。
京子がもがく。凄まじい力だ。私は渾身の力を振り絞って押さえつける。
やがて京子の力が抜けた。人気のない古いアパートの裏手に引きずり込む。
彼女の意識のないのを確認して、彼女の口に毒物を流し込んだ。
苦しむことはない。このまま安らかに眠りにつけるのだ。
額に流れる汗を拭いながら、私は彼女を埋めた。何もかも計画通りだった。


2週間ほどたったある日、いつもの仲むつまじい二人が歩く姿が、
誰の目にも自然に映ったに違いない。
あの晩から私は東京へ出て、ある写真を元に整形手術を施してもらった。
私は何食わぬ顔で此の地へ戻り、捜索願の出ていた京子になりすました。
まんまと彼女と入れ替わることに成功したのである。
そんなある日、彼が私に告げた。
「京子ちゃん、すまない。好きな子ができたんだ。別れよう。」
思いがけない展開だった。私はまだ彼に抱かれてもいない。狼狽した。
「いやよ、絶対にいや」
私は叫んだ。そうして彼の首に手を回した。
その時、彼の手が私の首筋を掴んだ。
力が強く込められていくのを感じる。私は彼に殺意があるのを感じ取った。
「何をするの!?」私は必死に抵抗するが声が出ない。
助けを呼ぼうにも周りに人気はない。彼の髪を掴んだ。
私は気付いた。ほくろがない。彼の耳には大きなほくろがある筈だ。
私は彼のことは何でも知っている。「あなた、いったい誰?」男が呟いた。
「あいつは俺が殺した。おまえを抱きたかったが他にもいい女は大勢いることに気付いたのさ」


遠のく意識の中で、私は何かが歪んでいるのを感じていた。

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